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インタビュー

「日本人のアイデンティティを持った国際人」マスリー賞 日本国際賞受賞

遠藤 章(えんどう あきら)

株式会社バイオファーム研究所 代表取締役所長 昭和32年農学部(農芸化学科)卒業

専門分野

専門分野は、カビや酵母などの微生物を利用する応用微生物学です。
カビや酵母などの微生物が、地球上に、どれぐらいいるのかまだ正確にはわかっていません。数万種類は下らないと思われます。その中から、私たちがほしいもの、生活に役に立つもの、具体的には薬や食品素材を作るカビやきのこや酵母を探すのが私の専門です。

両賞受賞の研究

私は1966年から68年までの2年間、年齢で言えば32歳から34歳にかけて、アメリカに留学しました。留学する以前からコレステロールの生化学、とりわけコレステロールの生合成に興味がありました。
当時の日本では、コレステロールや心臓病はあまり関心をもたれていませんでした。ところがアメリカでは高コレステロール血症を主要因とする心臓病患者が非常に多く、その数は1千万人以上、毎年7~80万人もの死亡者がいましたが、コレステロールを下げるよい薬がないということでした。
私は少年の頃から人の役に立つことをしたいと思っていました。そういう理由から基礎研究よりも実際に役に立つ応用研究が好きでしたし、やりたいと思っていました。ですから、世界中の高コレステロール血症患者の役に立つ研究に挑戦することに、非常に大きな意義を感じ、好きなカビや酵母からそういう薬を探す決意をしました。
現在、私が発見したコンパクチンを元に作られたスタチンというコレステロール低下剤が世界中で使われています。スタチンは、毎日3千万人以上の患者に投与され、心臓病と脳梗塞の予防に貢献しています。スタチン開発の土台をつくった業績が評価されて日本国際賞に選ばれました。
マスリー賞は、アメリカのカリフォルニア大学(ロサンゼルス校)と南カリフォルニア大学の医学部の先生方が中心に世界中の研究者を対象に選考する賞で、医学に貢献した1人または1グループを表彰する権威あるものです。
私が研究をはじめた頃、日本では高コレステロール血症や心臓病はそれほど多くありませんでしたが、アメリカでは深刻な病気でした。アメリカは医学のレベルが高く、コレステロール研究の本場です。ですから、もちろん日本国際賞で認められたのは大変光栄であり、名誉ですが、マスリー賞を受賞して本場のアメリカで認められた事もこの上なく嬉しく思います。

学生時代の思い出

戦後の復興期で、何しろ物がない時代でした。戦争終わったのが昭和20年で、私が入学したのが昭和28年です。今に比べたら大変に貧乏でした。お腹いっぱいご飯を食べることもできないし、着る物もない時代でしたが、しかし国民が復興に燃えていました。なんとかして復興させようと、みな目が輝いていました。私たち学生も「俺たちがこれから日本を背負って立つ」と燃えていました。「我々が一生懸命がんばって日本を復興させる」という気概が漲っていました。何も物がない時代でしたが、そういう点で私はハングリー精神を養えたと思い感謝をしています。

学生時代の思い出

とにかく視野を広げてほしいと思います。仙台や日本の内側から世界を見ていると、必ず誤解が生じます。特に若い人には日本を飛び出して見聞を広げ、日本の外から日本も見て、日本以外の世界も見ることが非常に大事だと考えています。
外に立って世界の中に身を置くことが、自分のやるべき事や研究テーマを考えるにしても、人生観や価値観を育むことにおいても、大切だと思います。
ただ忘れるべきでないのは、アメリカに影響されすぎてはいけないということです。
日本には、何百年も続いてきた日本のよさ、他にはない特色があります。日本人のアイデンティティというものがあります。どこにいても、それを決して見失ってはいけないと思います。それを大事にしてはじめてユニークなものが出てくると思います。世界に通用するような日本の独自性というものが出てくると私は思っています。

JAPAN PRIZE 日本国際賞について


日本国際賞の授与母体である財団法人国際科学技術財団は、昭和57年11月1日に内閣総理大臣の許可を得て「日本国際賞準備財団」として発足しました。その後「国際科学技術財団」と名称を変え、日本国際賞の授与を始め、今年で22回目となります。
日本国際賞は、科学技術の分野における権威ある国際的な賞として、独創的・飛躍的な成果を挙げ、科学技術の進歩に大きく寄与し、人類の平和と繁栄に貢献したと認められた人に与えられるものです。

The Massry Prizeマスリー賞について


マスリー賞の授与母体The Meira and Shaul Massry Foundationは、南カリフォルニア大名誉教授のシャウル・マスリー氏の功績を讃える財団として1996年に創設されました。マスリー賞は、医学分野で世界的な業績を挙げた人に対して1名または1団体に与えられるものです。これまで17名の受賞者のうち6名がノーベル賞を受賞しています。

両賞の受賞対象となった遠藤氏の業績


受賞の対象となったのは、「スタチンの発見と開発」です。
心筋梗塞や脳梗塞などの動脈硬化による血管障害性疾患は、世界中で多くの人が罹患している疾患であり、動脈硬化を促進する要因は、高コレステロール血症です。遠藤氏は、血中コレステロール値を効果的に下げる薬を発見、開発しました。
遠藤氏は、青カビの一種であるPenicillium citrinumから得られた物質(ML-236B)が血中コレステロール値を下げることを発見し、その機序がコレステロール合成の律速酵素であるヒドロキシメチルグルタリル-CoA(HMG-CoA)還元酵素に強い親和性を持ち、拮抗的に強く阻害するためであることを明らかにしました。その後、組成が人間に近い犬のコレステロール値を下げることを証明し、更に共同研究により、ML-236Bが家族性高コレステロール血症の患者の血中コレステロール値を効果的に低下させることを証明しました。その結果、ML-236Bの系統の薬剤(スタチン)が多くの製薬会社により製造され、現在世界中の患者に投与されています。
遠藤氏のこれらの研究は、1985年にノーベル生理学・医学賞を受賞した米国のMichael S. Brown、Joseph L. Goldstein両博士によるコレステロール代謝に関するLDL受容体の研究にも大きな貢献したと言われています。
スタチンによる高コレステロール血症の治療効果が動脈硬化を背景とする血管障害性疾患を世界中で激減させることにつながった一連の研究において、遠藤氏が決定的な役割を果たしていることが、両賞の受賞につながりました。

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